昨年の夏に起きたチリ鉱山での落盤事故は記憶に新しく、事故から69日後に全員が
無事に救出された感激の映像が放映されていたのは忘れられない。
「チリ33人~生存と救出、知られざる記録~」と題した本が出版され、大塚常好氏
の書評が日経ビジネスに掲載されていた。危機を乗り越えたリーダー像が生々しく
語られている。この本はリーダーが生きる希望が見出せない状況下でどのように
33人を統率していったかの記録でもある。評者が注目されたのは、地上から掘り
進めたドリルの先端がやっと33人の避難エリアに到達し、細いトンネルを通して
食料などが供給出来るようになるまでの17日間だった。気温は30度以上、湿度も
90%以上と言う極限的な拘禁状態だ。想像しても誠に厳しいことこのうえないし、
全員が「ほぼ絶望」と考えておられたのも不思議ではない。「生きる」と言うこと
に直面すると「食料」の問題があった。真実は全員がパニック状態で、個人個人が
勝手に動き回り、派閥をつくり統制不能だったようだ。破綻する組織も次元は違う
がまさに似たような状態ではないだろうか。そこで33人を束ねた2人のリーダーが
現れたのである。冷静沈着なリーダーとややひょうきんなリーダー、シェルターに
保管していた食料は、事故後すぐに厳重な監視下に置かれ近づけるのは2人のリー
ダーのみ、33人に平等に食料が配給されるシステムが作られた。2人が独裁的になら
ずに役割分担してあらゆることを全員の民主的な投票で実施したらしい。食事を
する時は33人が全員に食べ物がいきわたったのを確認して、一斉に食べると言う
ルールも徹底したのである。長期の危機管理のポイントは短期とは違って「同じ
目線で、民主的なルールを作り、全員が平等である」と言うことを徹底すること
ではないだろうか。かなり以前だが新田次郎氏の「八甲田山死の彷徨」と言う本が
出され映画にもなったことがあった。危機に直面しリーダーのあり方で生死が決ま
る時のリーダーのあり方を示唆していたので、幹部教育の題材にした記憶がある。
危機管理と言ってもカリスマ的なものが求められる場合と、民主的なものが求めら
れる時とはどうやら違うようだ。いずれにしても危機時のリーダー不足は否めない
昨今である。
2011/08/09 06:00