人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

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2013年11月 1日

埋没する怖さ(ビジネスサプリメント563号)

安倍晋三首相が成長戦略の中核に「女性の活用」を位置づけたが、ある優秀な女性社員のお話しである。彼女は入社9年目で企画開発職の中堅どころ、非常に明るく常に前向きで仕事に取り組んでおられた。上司からの信頼は抜群で何でも無難に仕事をこなしていたのである。また組織には部門間と言う重たい壁があるが、彼女は各部門のキーマン達と常に密なるコミュニケ―ションを心がけており、それぞれのセクションとの太いパイプがあった。もちろん彼女と同世代の方達との交流が多かったが、他部門の管理職からの信頼も厚い。
そこで彼女に意地悪質問をした「あなたは良く頑張っているし、皆さんからの信頼感もある、しかしあなたがこれから最も伸ばしていかないといけない力は何だと思う?」と。彼女は「うーーん!」と考えてしまったのである、即答えが出てこない。そう、非常に頑張っているが、彼女が日常の仕事に埋没している危険性を感じたのである。いわば彼女の「キャリアの踊り場」なのだ。踊り場とは英語でlanding(着陸・着地・振り返り)、飛行機であればそこで機材点検をして、燃料補給をする場面だ。辞書にはLandingに矢印が付いてありflight(飛び立ち・次のステップ)へとつながっている、そう今が次なる飛び立ちへの準備をしなければいけない「踊り場」なのだ。彼女と何回かヒアリングをしているうちに、「後輩やパート社員の方達への育成指導は出来ているのか?」と言う課題に行きついた。彼女はかなり忙しいのであまり余裕のある時間が少ない、従って育成計画なんかはなく、気が付いたら口頭で教えていると言う現状だったらしい。これから彼女は管理職への道を進むなら「マネジメント力」を付けていかないといけないし、彼女もそのことを良く理解したのである。まずパート社員2人の育成計画を立てようと言うことになった。1人の方は経験豊富で業務のことは良く理解しているが、周りに共有しようとしない、もう1人はまだ経験が浅く覚えないといけないことが多い。そこで経験豊富な方から、経験浅い方へスキルを伝授させると言う計画を立てたのである。最初は経験豊富な方が「何で私が?」と言うスタンスだったが、教えることで更にスキルが深まる旨を納得させ、徐々に進んで行ったらしい。
その結果「経験豊富な方のお休みの時、経験の浅い方が今まで出来なかった仕事を、何も指示しなくてもスムーズに進めていた」との報告をいただいた。
彼女は何でも出来るからということで、便利使いされていた部分もあったかも知れないが、この「踊り場」を乗り越えたようで、その後もご活躍されているとのお便りをいただいた。

2013/11/01 08:45 |

2013年11月10日

どちらの目線(ビジネスサプリメント564号)

分厚いマニュアルを見るとうんざりすることが多い。業務マニュアルは実際に自分たちの仕事の内容や方法が記載されているから何とかマスターは出来るが、仕事に於いてのマニュアル頼りだけではそれ以上のものは生まれないと思う。マニュアルは基本であり、応用が出来なければ意味はない。特にパソコンやスマホ、ガラケーのマニュアルは誠に解りにくい。何故なのだろうか?
もちろん私の知識・スキル不足は否めない事実ではあるが、それはメーカーの専門家が作るから解りづらくなるのではないだろうか。使い手の立場を考えて書かれているか疑わしいことが多い。全て理解している人が書くから非常に解りにくいものなのだ。解らない人であればシンプルにどのように表現したら良いのかをもっと考えるべきである。前職での経験だが「お手洗い」の表示をつけているにも関わらず、お客様からのお問い合わせが非常に多かったことがあった。いろいろと考えたのだが「お手洗いの場所」を知っている社員が貼りつけたからかもと言う仮説を立ててみた。「社員目線」であり「お客様目線」にはなっていないのではないかも知れない。そこでお手洗いの場所をご存知ないお客様約30人にお願いして「どのあたりをご覧になりますか?」と3パターンほどお尋ねをして、一番多かった場所に付け替えをしたのである。そうするとお問い合わせがぴたっと止まった経験があり、付ける方と見る方の目線の違いは明らかだった。
PC等のマニュアルもユーザーのご要望通りに書かれていると解りやすいが、機能満載で専門家が丁寧に書くから誠に解りづらいものなのだ。こんな機能はいらないのにと思うことがしばしばである。最近の食材偽装や誤表示問題なるものは論外であるが、「お客様にとってどうなのか?」と言う視点が欠落している証左でもある。
「わが社の常識は世間の非常識」になっていないだろうか。自己満足のマニュアルになってはいけない。誤表示でも千葉県の浦安にあっても「東京ディズニーランド」は許される(笑い)。
前職ではお客様がお買い上げになる場所を「売り場」と呼んでいたが、あるお店では「お買い場」と呼んでいる、またあるお店では「お過ごし場」と呼んでいるようだ。まさに買い手の立場に立って物事を進めると言う発信である。
私事だが愛用したPCのソフトをマイクロソフトのXPから7に変えたがマニュアルを見ても解りにくい、ソフトが違えば何故このように操作が違うのか困っている毎日である。

2013/11/10 08:52 |

2013年11月18日

2人のリーダー(ビジネスサプリメント565号)

以前ヒアリングした事業所である2人のチームリーダーのことを思い出した。例えばAさんとBさんとしよう。
Aさんは問題意識旺盛で機転がきく若きリーダー、業務の流れの問題点を見つけ出し、どんどん改善していた。しかしものの言い方は何時も決めつけが多く、最初はメンバーに受け入れられるが、上目線で感情的な振る舞いをしているので仲間からの信頼感は薄く反発もあったようだ。
Bさんは人柄が良くメンバーの気持ちを掴むことが出来て、仲間からの信頼感は抜群であった。しかし物事を改善提案したり、厳しく叱ったりは出来ず、自ら先頭をきってリードしていくタイプではなく、何時も何となく控えめな様子、要は嫌われたくなかったのかも知れない。
即ちAさんにないものはBさんにあり、BさんにないものはAさんにあると言う状態で、ややお互いに敬遠したり、遠慮し合った関係だったのである。
ある時メンバーの日報を見て意見が分かれたらしい。新人のメンバーが日報に「つまらない仕事をさせられて大幅に時間がロスした」と書いていた。Aさんは「つまらない仕事」なんてない、こんなネガティブな意見は大きな問題だと判断し、Bさんに伝えた。Bさんはこのメンバーと日頃から接点があり、その日の行動も全て把握していたので、彼のコメントの真の内容を掴んでいると判断した。
文面だけを捉えれば問題かもしれないが、Bさんは彼の言っていることは正直で特に問題はないと言う。そこでお互いにリーダー同士がこの問題をきっかけに初めて「気楽にまじめな話し合い」を持ったようだ。Aさん曰く「Bさんは皆に日頃から声をかけて、常に現場目線で仕事をしている」と、自分の至らなさを痛感したようだ。
Bさんは「Aさんは何時も問題点を掴み良く分析できる、自分は日頃の業務に埋没していたかもしれない」と反省の言葉があった。
驚いた事にお互いに遠慮していた関係から、この一件を機にお互いの足らないもの自覚して、足りない部分をお互いにフォローし合う関係を作って行こうと合意が出来たようだ。
完璧なリーダーはそんなに存在はしない、お互いに良い部分を伸ばし、出来ていないことは相手から学ぶ姿勢が出来てこそチームは上手く回るものだ。
AさんとBさんに改めてヒアリングをしたら、2人で力を合わせてメンバーの仕事がやりやすいようにしていくことが自分たちの役割であると、力強い言葉をいただいたのが印象的だった。事業所の責任者からはこのチームはその後
素晴らしい成果を出していると言う便りをいただいた。

2013/11/18 08:59 |

2013年11月27日

おもてなし(ビジネスサプリメント566号)

2020年のオリンピック招致に成功した東京、私も頑張って生中継を観たが、滝川クリステルさんのプレゼンテ―ションで一躍話題になった「おもてなし」と言う言葉を考えてみた。語源は「もてなす」の動詞から来ており「もてなし」と言う名詞形に「お」が付いたものとされるらしい。
先日TVで放映していたが、外国の方から見た日本の素晴らしいおもてなしは「タクシーの自動ドア」「ゴミが落ちていない」「メガネの電子洗浄器」だとか。
そうすると先日の日経新聞に国立新美術館長青木保氏が「縁薄れ 心遣い忘れる」と言うテーマで語っておられる記事を見た。氏は「本来のおもてなしとは、お金が介在しない心遣い、全く知らない人であっても困っていたり寂しそうにしていたりしたら、ちょっと声をかけて『どうかしましたか』と聞いてあげる、人間関係を円滑にする潤滑油であり、他人の温かさを知り、自分もそれを他人に受け取ってもらうことで気持ち良くなる、そういうものだと思うのです」と述べておられた。優先座席にも関わらず前にお年寄りが立たれていても、寝たふりして席を譲ろうとしない若者などはあきれてものが言えないが。
前職で大変印象的なお褒めの言葉をいただいたことを思い出した。ある時夕刻地下出入り口付近でお年寄りのご夫婦が何やら迷われていた。出口の外であったがある係員が「どうかされましたか?」とわざわざ外に出てお声をかけたのである。この方は神戸はまれにしか来られずJR三宮へはどのように行くのか、随分と迷われていた。我々のお店のお客様ではないが、その係員は、わざわざお二人に付き添いお話をして駅までご案内したらしい。後でご丁寧なお礼状をいただき、係員のネームプレートを覚えておられ「○○さんによろしくお伝えください、このような親切な態度に感動しました、御社のますますのご発展をお祈りします」と言う内容だった。早速全店朝礼をしてその係員の表彰をしたことがあったが、まさにお金が介在しない「おもてなし」だったのだろう。
このことから「おもてなし」は相手を思いやる心の大切さを思い起こさせられた。青木氏も今日本に消えかけている「おもてなし」文化は「あいさつ」から再出発と言われている。挨拶とは「心をひらいて相手にせまる」とある。先日友人とハイキングをしていたら、違うグループとすれ違い、お互いに「こんにちは」と声をかけあったが、何となく清々しい気持ちになった。
まずは顔を見たらニコッとする、些細な事から「おもてなし」を考えたいものだ。

2013/11/27 14:42 |

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