気づかせる(ビジネスサプリメント503号)
先日の日経新聞に水泳の北島康介選手を育てた平井伯昌ヘッドコーチの記事が
掲載されていた。ロンドン五輪で競泳の女子メドレーリレーを泳ぐ4人のうち、
3人は平井コーチの門下生なのだ。2008年秋、北京五輪で北島選手を2大会連続
平泳ぎ2冠、背泳ぎの中村選手を2大会連続銅メダルに導いた平井コーチは、門
をたたいてきた寺川選手と加藤選手を受け入れたそうだ。しかしその時は「北島
選手のレンズ」で見てしまった、「中村選手はこうだった」との目で寺川選手を
見たと反省の弁を述べられている。「北島・中村のコーチが寺川・加藤を教えて
いる、上手くいくわけはない」、加藤選手に「こうしたら」と水を向けても「出
来ません」と返されたそうだ。北島選手らのような反応はないし、教えるのを
やめようかと思われたが、夜中にビデオ映像にかじりついて「おまえが負けた
ライバルはここがお前より優れている、ここを直そう」と説明した。感心する
加藤選手から信頼をつかんでいく。体験者が語るのは重い、「選手を変えようと
思うと、かえって変わらない」、コーチは道具であり、選手自ら変わるように
仕向けるのが理想である。面白い次のようなエピソードが紹介されていた。4月
の代表選考会、緊張で顔がこわばる加藤選手に声をかけた。「何に緊張している
の?」「自分にです」「自分の何に?」「自分に対する期待」「何の期待なの?」
と問いかけ、選手に考えさせることを平井コーチは大事にされている。加藤選手
は緊張の正体を分析するきっかけをつかみ、100メートルバタフライを日本新記録
で制したのである。まさに「考えさせる、答えを気づかせる」と言うコーチング
の基本を実践されたのである。
実は私もある組織で30代の男子社員の方を気づかせたことを思い出した。彼は
能力があるにも関わらず、日頃の仕事を漫然と処理し、全くヤル気など見せな
かったのである。彼と4回ヒアリングをした。「社員でありながらフリーターでは
ないか、私から見れば素晴らしい能力があるのに!」「別に良いではないですか」
「どうしてそのようになったのか?」「周りは誰も認めてくれないし、やっても
やらなくても同じ」「それで君は満足?」「そうではない」「認めてくれるよう
に努力した?」「いやーどうかな?」「だめ元でもその姿を見せようよ、あなた
自身のためだから」「やってみます」と言うようなやり取りだった。その後彼は
自分で答えを見つけ、今やなくてはならない存在になっている。そう!気づかせ
るマネジメントは相手に考えさせることありきだ。