人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

ブログ

« 2012年8月 | メイン | 2012年10月 »

2012年9月19日

現場主義の落とし穴(ビジネスサプリメント520号)

「現場こそ命」とか「会議で問題は見えない、現場に問題がある」などの言葉が

良く使われる。確かにその通り、前職時代は現場に良く足を運んだものだ。売場を

見れば「どのようなお客様が多いのか、何が売れているのか、販売員の様子はイキ

イキしているのか」が良く分かる。しかしもっと大切なことは「場面だけ捉えて分

析できず、決め付けてしまう怖さ」にあることも経験した。

先日の朝日新聞に田中和彦氏の「現場至上主義になった理由」と言うコラムに面白

い事例が掲載されていた。この事例はあるコンサルタントの方の義父がベッドタウ

ンに地元密着のスーパーを経営されていたらしい。何とか赤字にならずにきていた

が全国チェーンの複合型スーパーの進出で、競争は激しくなる一方だった。そこで

奥様から「父にアドバイス」を頼まれたとのこと。そこでさりげなく店舗内を見て

回られたらしい。大きな手書きの商品説明が肝心のポイント商品を隠していた。

売れ筋商品はお客様の目線の高さになっていない、最新タイプの商品が発売されて

いるのにまだ型落ちした商品が並んでいる、販売員に愛想が感じられないなど、

次々に問題点が明らかになってきた。確かに一般論からはおかしな状況であり、

私もそのような記述を拝見して、それではものが売れないし大きな問題点である

ことは間違いないと思ったのである。早速義父の方にお伝えになられたら「そう

だね」と一言で、反応が薄い、そして「明日1日お店を手伝ってくれないかな」と

言われて、喜んでお手伝いされたとある。驚いたことに、翌日は朝から大忙し、

偶数の月の15日は年金支給日でその日はお年寄りであふれ、まるで年末のような

賑わいだったのだ。そう言えば私も偶数月の15日に郵便局に用事があり訪れたら、

ATMに長蛇の列だったことを思い出した。お手伝いされるといろいろなことが見

えてきたらしい。大きな文字は老眼でも読めるための配慮で、重い商品を低い場所

に並べるのは、力の弱い高齢者向けの工夫だったのである。型落ち商品は「○○さん

用」と顔の見えるお客様のための品ぞろえであり、愛想のないと思った販売員は

「お米は後でお宅までバイクでお届けします」と頼もしい言葉を言っていたとの

こと。その地区は若い世代が新興住宅地に移り、購買力のある高齢者の町になって

いたのである。義父の方はそのような状況変化に素早く対応されていたことが分

かったと記載されていた。見ただけでは分からないし、決め付けることは危険であり、

一番大切なことは、「変化」する状況をいち早く分析して、お客様の立場に立って、

客観的にものごとを見る力が求められているのではないだろうか。

2012/09/19 08:07 |

2012年9月 9日

男性の日傘(ビジネスサプリメント519号)

先日の朝日新聞に男性の日傘が年に1000万本売れているという記事を読んで驚

いた。どうやら強い日差しを避け紫外線を浴びたくないと言う思いは男性も一緒

らしい。男性の日傘は4~5年前から徐々に広がり、今年は各販売店が種類や本数

を増やしているとのこと。戦前では男性の日傘は流行ったらしい。涼しくて、今

問題の熱中症を防げて、有害な紫外線もカットできる日傘を男性もさそうと言う

時代なのだ。確かにずっと木陰で歩いているような涼しさらしい、販売担当者は

「ここ数年、徐々に男性の注文や感想が増えている、実際に使って遮光や遮熱の

効果に驚いく人が多いようです」とのコメントも掲載されていた。まだ私は使って

いないが、真夏の高校野球やスポーツ観戦には最適かもしれない。まさに消費の大

きな変化である。

以前雨傘売場のお話をしたことがあるのを思い出した。ある梅雨時のことだった、

どうやら空梅雨なのである。販売データーを調べてみると売上は散々、前年比80%

の極めて不振な状況だった。早速売場に赴き責任者を問い詰めると「雨が降りません

から」と言うではないか。景気が悪いから売上があがりません、販促が出来ていな

いから売れません、など他責にしてしまうのは簡単である。しかしこの厳しい経済

状況下で生き残るには「その状況でどのようにすれば売上を上げることが出来るの

か」を考えていかないとだめである。そこで第一線の女性販売員の方に「どうした

ら空梅雨の時に雨傘が売れるのか?」を聞いてみた。そうすると彼女から私に「雨

傘は何のために買われるのですか?」と言う質問があった。私は「当然雨に濡れな

いためしかないではないか」と答えたが、それから?とまたまた質問、困っていると

「女性にとって傘はファッションなのです」との答えが返ってきた。したがって空

梅雨の時は出来るだけ「ファッション性の高いものを全面に出し、今よりも姿見を

増やして欲しい」と言うではないか。お客様は傘を手に取り姿見の前でスーツやバッ

グや靴と傘がコーディネートしているかを確かめて、お買い上げになるらしい。

雨が降れば即座にワンタッチの傘を全面に出すべきとの提案ももらった。さすがに

現場の感覚である。早速実践したら空梅雨にもかかわらず売上は目標をクリアした

ことがあったのを思い出した。消費の変化を先取りした男性の日傘もこれからは

ファッションの一つになるかもしれない。

2012/09/09 16:31 |

2012年9月 1日

利己から利他へ(ビジネスサプリメント518号)

東京電力原子力発電所事故調査委員会の黒川清委員長が語られた内容が日経ビジネ

スに掲載されていた。黒川氏は委員長就任前に太平洋戦争の生存者の証言で振り返

るテレビ番組をご覧になったそうだ。その頃には福島第1原発に関わった人々の証言

もテレビで報道されていたが、この2つの証言は驚くほど似ていたと述べられていた。

つまり多くの責任ある立場の人間が、いくつもの機会に「分かっていたけど黙って

いた、止められませんでした」と言うことを言っている。それを見て、何故日本人

は過去の失敗に学ばないのか、責任ある立場の人達が変われないのかを強く感じら

れたとある。全く同感である、私の経験からも失敗からこそ学ぶことが多いが、多

くの場合逃げてしまう。「利他」より「利己」を大切にすることが多い。

以前ある企業の幹部クラスの方々が「うちのトップにはものが言いにくい、おかし

いと思っていてもおかしいと言えない」風土があると言うではないか。もちろん

幹部クラス以下の方々の思いも同じであった。しかしトップの方は社員の諫言は聞

いているし、甘言は大嫌いとお話されている。トップと社員との溝は随分深いもの

があったが、幸いトップの方は私の話を良く聞いていただけたので時間をかけて

現場の実態を詳しくお伝えした。かなりの時間が経ったように思ったが「良く分か

りました」と言われ、その後は部下の意見を聞かれるようになり、非常に風通しの

良い職場に生まれ変わったことがあったのを思い出した。人が変われないのは「今

のままが良いではないか」「他の人も変わっていないではないか」「何故自分が

リスクを犯してまでする必要があるのか」などと思ってしまうからではないだろ

うか。同じ環境下にいると「おかしい」と思っていたことでも「これが当たり前」

と錯覚をしてしまう危険性がある。実は私も社員として、トップとして同じような

経験をしたが、組織から離れると「おかしい」ということに気づくのである。だか

ら第三者として私が組織に入ると「おかしいよ!」とお伝えすることが出来るのだ

と感じる。多くの組織の人達は「それを当然」と思い皆が共有してしまうものだ。

「思い込み=マインドセット」は組織を破綻させる大きな原因である。要は各人が

「利己」から「利他」のマインドを持てる組織こそ生き残るのではないだろうか。

2012/09/01 09:09 |

お問い合わせ