「現場こそ命」とか「会議で問題は見えない、現場に問題がある」などの言葉が
良く使われる。確かにその通り、前職時代は現場に良く足を運んだものだ。売場を
見れば「どのようなお客様が多いのか、何が売れているのか、販売員の様子はイキ
イキしているのか」が良く分かる。しかしもっと大切なことは「場面だけ捉えて分
析できず、決め付けてしまう怖さ」にあることも経験した。
先日の朝日新聞に田中和彦氏の「現場至上主義になった理由」と言うコラムに面白
い事例が掲載されていた。この事例はあるコンサルタントの方の義父がベッドタウ
ンに地元密着のスーパーを経営されていたらしい。何とか赤字にならずにきていた
が全国チェーンの複合型スーパーの進出で、競争は激しくなる一方だった。そこで
奥様から「父にアドバイス」を頼まれたとのこと。そこでさりげなく店舗内を見て
回られたらしい。大きな手書きの商品説明が肝心のポイント商品を隠していた。
売れ筋商品はお客様の目線の高さになっていない、最新タイプの商品が発売されて
いるのにまだ型落ちした商品が並んでいる、販売員に愛想が感じられないなど、
次々に問題点が明らかになってきた。確かに一般論からはおかしな状況であり、
私もそのような記述を拝見して、それではものが売れないし大きな問題点である
ことは間違いないと思ったのである。早速義父の方にお伝えになられたら「そう
だね」と一言で、反応が薄い、そして「明日1日お店を手伝ってくれないかな」と
言われて、喜んでお手伝いされたとある。驚いたことに、翌日は朝から大忙し、
偶数の月の15日は年金支給日でその日はお年寄りであふれ、まるで年末のような
賑わいだったのだ。そう言えば私も偶数月の15日に郵便局に用事があり訪れたら、
ATMに長蛇の列だったことを思い出した。お手伝いされるといろいろなことが見
えてきたらしい。大きな文字は老眼でも読めるための配慮で、重い商品を低い場所
に並べるのは、力の弱い高齢者向けの工夫だったのである。型落ち商品は「○○さん
用」と顔の見えるお客様のための品ぞろえであり、愛想のないと思った販売員は
「お米は後でお宅までバイクでお届けします」と頼もしい言葉を言っていたとの
こと。その地区は若い世代が新興住宅地に移り、購買力のある高齢者の町になって
いたのである。義父の方はそのような状況変化に素早く対応されていたことが分
かったと記載されていた。見ただけでは分からないし、決め付けることは危険であり、
一番大切なことは、「変化」する状況をいち早く分析して、お客様の立場に立って、
客観的にものごとを見る力が求められているのではないだろうか。
2012/09/19 08:07