人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

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2012年10月20日

気づかせる(ビジネスサプリメント523号)

最近「あの人に教えてもらった」と言う言葉を聞くことが少なくなった。自分自身

を振り返るとかなりの「あの人」が出てくる。必ず「叱られた」ことばかりを思い

出すことが多いが、後になって振り返ってみるとそのことを糧として反省する自分

があったのを思い出す。叱られた時は腹が立つし面白くはないが、時間が経つに従

って心に残り忘れないものである。今は人間関係が淡白になったのだろうか、あま

り関わりたくない気持ちが先行しているのか「上司、先輩の指導で育つ」ケースが

少なくなってしまったような気がする。おそらく上司や先輩が変なことを言って嫌

われたくない気持ちや、パワーハラスメントと思われたくない風土が原因している

かもしれない。ある新聞にOJTが死語となってきたと書かれていたが、人材育成

の基本はOJTであると感じる。

私の事例で恐縮なのだが、先日元部下の方とお話する機会があった。彼が教育担当

に異動で私の部下となり新入社員教育を担当することになった時のことである。彼

には教育期間中に100名を超える新入社員の名前と顔を覚えることを課題としたらし

い。期間は1週間ほどである、彼は新入社員の顔写真と名前を書いた虎の巻を持って

必死に覚えようとしていたのであるが、なかなか覚えきれない苛立ちを持っていた。

私も同じような手法で覚えて「ちょっとあなた」と呼ぶのではなく必ず「○○さん」

と呼ぶようにしていたが、彼と違うのは可能な限り1人1人に声をかけ話しかけてみ

るようにして覚えたのである。そうすると覚えられるものだった。彼はただ単に必

死で覚えることに専念していたので、私が「皆と話をしたことはある?そうでなけ

れば機械的に覚えられないよ!」と指摘したらしい。彼は「ハット」気づいたらし

く、かなりの努力をして可能な限り話しかけ、何と期間中に全員の名前と顔を覚え

たというエピソードを聞かせてくれた。彼曰く「あの時に教えてもらったことは生

涯忘れていない」と言うではないか。私自身はそのことをすっかり忘れてしまって

いたが、言われた方は覚えていた。混迷のこの時期こそ「人材育成」が一番大事と

叫ばれているが、これからの企業に必要なことはマニュアルだけではない、上司や

先輩からの気づきを促す言葉が大事ではないだろうか。社員の目が輝き、職場では

明るい元気な声が飛び交っている組織が生き残るのは間違いないだろう。

2012/10/20 09:25 |

2012年10月10日

いろいろなリーダー(ビジネスサプリメント522号)

以前ご支援していた企業のリーダーで大変ユニークな方がおられた。このリーダー

はお手伝いした初回に個別ヒアリングを5回もさせていただいた方である。最初は

「話が苦手」であり上手く表現出来ないと言われたのであるが、回数を重ねるに

従って饒舌になられる、そう!典型的な「思い込みタイプ」だったのだ。その後

お電話したり、メール交換したり、時々事業所で立ち話したりと接点はたくさん

あったが良くお話しされるではないか。欠点は自分の得意分野は必死に取り組ま

れるが、やや苦手な分野はしり込みされる傾向があった。その後も何回となくお話

の機会があり、ずばりこのことを指摘させていただいた。部下の方々に彼の様子を

尋ねたが、この頃なんでも自分の分野として取り組まれているらしく、部下の方々

からの評判もすこぶる良い。しばらくしてそのリーダーのメンバーのヒアリングが

始まった。そうすると必ず事前に私にメールが入り、各メンバーの最近の様子や良

いところが記載されているし、最後に「よろしくお願いします」と結んである。

個別ヒアリングは数回実施するのだが、毎回メールが入るし、その時々のメンバー

の様子も記載されている。このようなメールをいただくと個別ヒアリングが非常に

進め易いのは言うまでもない。私も短くコメントしたメールを返すことにしている。

要はこのリーダーは各メンバーに関心があるのだ、即ち関わる心を持って指導に当

たられている。メンバーもそのことを良く理解しているので、このチームはヒアリ

ング以来、非常にスムーズなチーム運営がなされるようになった。リーダーにはこ

のような「熱意」が欲しいものだが、実際は自分のことだけを考える人が多い。

またある時に別のリーダーがおられたが、彼も非常で熱心に部下思いである。しか

し残念なことに部下からの信頼感は薄い。各メンバーにヒアリングで聞いてみると、

良く話は聴いてくれるが、答えが返ってこない、考え方がブレルと言うではないか。

そのことをリーダーにストレートにぶつけてみた。最初は納得されない様子だった

が、自分でも感じられることがあったのか、素直に意見を聞かれるようになった。

その後は素晴らしいリーダーとして活躍されている。ことほど左様にリーダーにも

いろいろなタイプがあり、どのタイプが正解とは言えないが「気づく力」を持った

方が大きく伸びられることは間違いない。

2012/10/10 08:48 |

2012年10月 1日

無縁社員(ビジネスサプリメント521号)

あるご支援した企業の話である、まず最初に社員全員に「気づき」の大切さを事例

を基に具体的にお話をさせていただいた。話だけでは「なるほど!」で終わってし

まう。そこで中堅クラスの方々5人を選抜して、その話から自分の身の回りで感じる

ことや、気づいたことを数回に亘って個別ヒアリングをさせていただいたのである。

最初はなかなかスムーズに話は進まないが、3回目あたりから、かなりの手応えを

感じるようになった。全員が言うには「みんな自分の仕事は熱心だが、講義を聞い

ても自分ごととして捉えず他人事、お互いの話し合いもない」と言うではないか。

そこで5人のメンバー同士がお互いにあまり話し合ったことがないので、自発的に話

し合い全員に「自分はあの話から具体的に何をするのか」と言うアンケートを発信

されたらしい。5人がそれぞれ役割を決めてアンケートを全員から回収、そして数

週間かけて朝礼で各人が自分の行動目標を発表する、期間を定めてその結果報告会

まで企画されたことがあった。私が提案したのではなく、5人のメンバーが気づき、

トップに報告されて動かれたようだ。個別ヒアリングで各人から途中経過もお伺い

してフォローしていったが、かなりの成果が残されたことを思い出した。5人のメ

ンバー曰く「今まで自分に関係ないことは殆どコミュニケーションせず、一体感は

全くなかったが、お互いに問題点を共有することが大切だと分かってきた」と言わ

れるではないか。そう!「やらされ感」は全くなく、自分たちでやろう、そして

「達成感」を感じながらイキイキ仕事をしていこうという風土に変わっていったの

である。その後もマンネリにならずに継続されているようだ。

そのようなことを思い出していたら、日経新聞に「無縁社員、職場で広がる」と題

して「今日も誰とも話さなかった」と言う特集記事が掲載されていた。不況を背景

に職場には緊張感が高まり、個々の成果が厳しく求められ連帯感は薄れてドライな

人間関係が生まれつつある。机を並べていても同僚とのつながりをいまひとつ実感

できず、メールでのやりとりですまされることはないだろうか。驚いたのは「お疲

れ様です」夕闇せまる勤務先の通用口で、退職時に警備員から声をかけられたのが、

その日会社で初めて人と交わした会話の人がいたと言う部分だった。冒頭にご紹介

したような組織にならないとこれからの厳しい時代に「組織力」は出せないと痛切

に感じる。

2012/10/01 09:23 |

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