朝日新聞のコラムに「ものづくりの技術 守ってばかりでは失敗招く」と言う
面白い記事が掲載されていた。何故目に留まったかと言うと、過去お手伝いした
ものづくりの企業で「技術の伝承」の難しさを感じていたからである。最近技術
者が高齢化し、若手が少なくなっている現実にも関わらず、上手く伝承できてい
ない事例が多すぎるような気がする。自分のスキルをブラックボックス化して育
てていないケースがよく垣間見れる。自分が開発した技術をそうやすやすと渡せ
るかと言う気持ちが深層にあるように思える時がある。記事にはシャープの開発
責任者だった佐々木正さんが、創業者の早川徳次さんに呼ばれ「これからもどん
どん人にまねられる技術をつくってくださいね、それが頼みや」と言われたとあ
る。少し引用させていただくと、佐々木さんは「技術はまねられる。むしろまね
られるような技術でないとダメだ、大事なのは、まねられてもすぐに新しい技術
を生み出すこと」と指摘されている。そう!これで良いと思った瞬間に、その技
術は陳腐化するものなのかもしれない。我々の組織においても同じようなことが
言えるのではないだろうか。市場ニーズは絶えず変化しているし、仕事の進め方
もマニュアル通りでは上手く進まないのは自明の理である。この記事に亀山工場
が液晶生産の拠点として注目されたころ、工場はブラックボックスとし、生産ノ
ウハウは門外不出となっていたらしい。技術を閉じ込め、守りさえすれば他は追
随できないという過信があったと。失敗学の権威一橋大学の野中郁次郎名誉教授
は「日本が怠りがちな<成功体験への過剰適応>が失敗の原因」と指摘されてい
るようだ。すなわち自分たちの技術はすばらしい、これを守れば競争力が維持で
きるという、思い込みが失敗を招くのである。私も守りに入って大きく失敗した
ことが山ほどあった。阪神淡路大震災時に多くの非正規社員の方々に対する雇い
止めは未だに心に残る大失敗であった。雇用と言うものの大切さを認識していた
のであろうかと言う悔いは残るが、その失敗から現場の人達を大切にしていかな
いと、企業は伸びないと言うことを学んだ。自分の経験からも、成功からは学べ
ない、失敗から数多くのことが学べると感じているこの頃である。
2012/11/01 07:54