以前に大手の会社の定年前研修に招かれたことがあった。全員で約70名、奥様同伴
もおられたが、皆さん明るい顔をされているのが印象的だった。ほとんどの方々が継
続雇用だとか。団塊の世代後も定年を迎える方々が多いことだろうが、25年4月から
改正高齢者雇用安定法が施行され「定年年齢の引き上げ」「定年の廃止」「再雇用制
度」など65歳までの雇用が確保されるようになる。しかしこのことによって若い人達の
雇用を脅かすことがあってはならない。残念ながら私には定年がなく54歳での失職で
あった。倒産とは誠に厳しいものであり、今までは定年を迎える方々はうらやましいと
感じることがあった。しかし今現在になって定年制度は年齢と言う枠決めでありかなり
無理があるように思うようになった。そうすると日経新聞のコラム「こころの健康学」と言
う欄に精神神経学の大野裕先生が次のように述べておられたのが印象的だったので
ご紹介する。
「定年で肉体的にも能力的にもまだ働けるのに、第一線から退場するように言われる。
まるで社会的に役に立たない人間だと言われたように思えて、退職を機に落ち込む人
がいる。働きたいのに働けないというのは、自分の力を否定された様に感じるからだ。
仕事という、自分がよりどころにしてきたものを失い、大きな喪失感を体験する。逆にそ
れまでの仕事から解放され、生き生きする例もある。そうした人たちの話を聞くと、自分
の好きなことが出来るようになったと考えている。自分らしい生活を送れるようになった
と喜んでいるのだ」と。私は54歳で失職した時は大きな喪失感にさいなまれたのを思い
出した。退職と言う現実は変えられないが、どのように受け止めるのかを理解するには
ずいぶん時間がかかったものだ。年齢だけで定年と言うのは致し方ないが、次のステ
ップとして捉えていくような気構えがこれからはますますと必要となってくる。知人で60
歳定年後全く仕事を離れて好きな古代史を学んでいる人もいるし、70歳で持っておられ
るスキルを生かし週3回の勤務をされている方もいる。また60歳で解放され、世界一周
旅行をされた方が、翌年することもなく求職活動をされている方もおられる。まさにさま
ざまである。今の私には定年がないし、定年は自分で決められる。いわば定年は登山
のようなもので、登りで頂上に着いたのが「定年」かも、その後は下山である。登山で
見えていなかったものが下山で見えてくると捉えたいものだ。
2013/03/31 08:28