以前長谷川英祐氏の「働かないアリに意義がある」と言う新書を読んだことがあった。そうすると最近の日経新聞に「働かないアリにも働き」と言うタイトルで大きな記事が掲載されていた。これはグローバル競争に負けない様にと効率性ばかりを追求する人間社会にあって、アリ社会に潜む巧妙さに見習うべき点があるかもしれないという観点からの記事であった。最近は働かない人は年収が極め少なくても当たり前と言う企業トップの発言が出てきているが、その様な単純な問題ではなく再考すべき多くの示唆が含んでいるのではないだろうか。長谷川氏の実験では体調1㎝弱シワクシケアリ150匹を採集し、頭・胸・腹の3カ所をそれぞれ10色で色分けし識別した。石こうで巣穴を作ったプラスチック製の水槽に入れて、顕微鏡で毎日定期的に何をしているのかを約1ケ月間観察し、1匹につき72回分の行動チェックをされたそうだ。労働とみなす作業と非労働とみなす作業を定義づけし観察したところ、労働が7回以下の働かないアリが約10%、28回以上の良く働くアリも約10%いた、そして残りは普通に働いていたとの実験結果が出たとある。働きアリのなかにも働かないアリがいるのはこれまでにも知られ、働き始めるための刺激の感度(反応いき値)が個体ごとに違うとされるからだった。今回の実験は、働くアリだけを集めて飼育し観察したところ、ほとんど働かないアリが10%の割合で出てくることを突き止めたようだ。
長谷川氏は「どんな集団にしても反応いき値のばらつきがあり、いき値の低い<働き者>が先に働き出し、結果的に<怠け者>が出てきてしまう」とのこと。しかし、働かないアリは何も怠けて働かないわけではない、周りに働いているアリがいなければ働くし、働くアリと働かないアリで大きな能力の差があるわけではないらしい。何故一定の割合で働かないアリがいるのか、長谷川氏は生き物も疲れる点に注目し、「疲れて働けなくなったアリが出てきたときに、代わりに働くためではないか」と言う仮説を立てられた。全員一斉に働く方が成果は出るはず、しかし全員が疲れ果ててしまうと、突然巣に敵が侵入してくるなど不測の事態が起きた時に誰も戦えず、巣は滅びてしまう。あえて効率の低い仕組みを採用して、絶滅リスクを最優先していると言う興味深い実験である。
今話題の「追い出し部屋」はなお更効率を阻害している気がするが、この論から「人と組織」のことを考えると「ある程度余裕をもって多様な人材を確保しておくと、組織の永続性は高まる」と言える面があるかもしれない。効率重視の限界が随所に出てきている今日、大きな示唆を含んでいると言える。
2013/05/10 08:56
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先日の日経新聞「経営の視点」に減りゆく革新的リーダーと言うコラムが掲載されていた。世の中アベノミクスで経済界を明るくしているが実際に経済成長させるのは「企業経営者の仕事」である。
掲載されていた求められる経営リーダーの条件は5つあり第1に、前例踏襲や先入観を排す「自由な精神」の持ち主でなければならないとある。過去の成功体験にすがっていては前には進まない。「前例がない、だからやる」のマインドが大事なのである。元職で雨が降らないから雨傘が売れないと言う時に、従来の売り方から「ファッション性のあるものを前面に並べて、姿見を増やす、雨が降れば機能性の高いワンタッチのものを前面に出す」と言う売り方に変えたら、空梅雨にも関わらず売り上げを伸ばしたことを思い出した。第2に社内の空気を変えるために「率先垂範」が大切とある。良く「明るくあいさつをしよう」とスローガンはあるが、トップ自ら先には声をかけないと言うことではダメである。また「後出しじゃんけん」のように結果論から評論ばかりしていては何にもならない。現場は「今更そんなことを言われても」と思っていることが多いものだ。第3は人の心を一つにするには、やはり「人間的魅力」が重要とある。指示命令だけでは成果は出てこない、社員に接する真剣な態度や熱意が感じられないと周囲の「信頼感」は醸成されないのではないだろうか。信頼感がない企業は表面的には分からないが「面従腹背」が多いのも事実であるし、真の成果は出ていないことが多い。一番大切なことは「現場目線」であり、トップは現場に入り声をかけることである。お手伝いした企業で深夜作業を伴う職場があったが、彼らの声は「深夜手当はもらっているがトップは我々の辛い仕事を理解しているのだろうか?」と言う声があり、早速トップ伝えて、深夜に現場に入ってもらい「缶コーヒー」を配ってねぎらいの言葉をかけてもらったことがあった。それからは現場の人たちのモチベーションも高まり素晴らしい成果を残されたことがあった。第4は明確な「ビジョンの確立」である。ビジョンなき経営は「海図なき航海」と同じでどこに漂流するかわからない。ビジョンがあやふやでぶれていては後退するのみである。第5に「修羅場」の経験が欲しいとある、これは直面しない事には何ともならないが、「どのようになっても、もう失うものはない」と良い意味での開き直りの精神が必要なのだ。失敗経験ばかりの私は自分で5つの(あ)を肝に銘じた。それは「あきらめない、あわてない、あせらない、あなどらない、あてにしない」の五つの言葉である。
2013/05/19 15:44
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ビッグデータとは「情報技術分野の用語としては、通常のデータベース管理ツールなどで取り扱う事が困難なほど巨大な大きさのデータの集まりのこと」を言うらしい。最近の日経新聞に「ビッグデータ 変わる企業」と言う特集記事が掲載されていた。世界で1日に生み出されるデータは1人あたり1ギガ(ギガは10億)バイトにおよぶとある、そのデータを使いこなせるかどうかが企業の競争力を左右する時代に筒入した。KKD(経験・勘・度胸)の時代を超えて舵取りをしないといけないのである。いわゆる「暗黙知=人間が暗黙のうちに知識として持っている、言語(文字)にできないもの」の「見える化」が必要となってくる。ビッグデータは社員の心の動きもあぶり出すと言う事例が掲載されていたので紹介する。「全国で一千社が利用するオリックス自動車の車両管理サービス、箱型の通信装置を車に載せて走行距離、アクセルやブレーキ操作などのデータを集める、急ブレーキを踏めば管理者にメールが飛び、社員の運転ぶりが手に取るように分かる、効果は安全運転の徹底やガソリン代の節約だけではない、運転が荒っぽくなった社員に事情を聞くと、仕事の悩みを抱えていることが分かったと言う会社もある、やる気の出る職場づくりに役立てる動きが広がっている」とあった。
そう「感覚や思い込み」では通用しないことが多い。以前にご紹介した私がご支援した職場での「見える化実験」を思い出した。ある工事関係の会社でリーダーがメンバーの名前を手帳に書き、声をかける度に正マークを書いていくものだ。実験以前のリーダーは全員に平等に声をかけている「つもり」だった。しかし実際の声かけには偏りがあったのだ。わずか7人のメンバーだったが1カ月間で一番声をかけたメンバーは30回、一番少なかったメンバーは3回と出てしまった。そこでリーダーは慌てて一番少ないメンバーと打ち解けて話し合った。そうするとメンバーは「何故自分だけが事業所から遠い工事ばかりなのか?」「何故難しい工事ばかりを割り当てるのか?」との疑問の声が出てきた。このメンバーの帰社時間は何時も誰よりも遅いのである。リーダーに悪気はなくメンバーに関心を示さずに、帰りが遅いので声をかける場面が少ないことに気づかなかったのである。そこで改めてメンバーに詫び、公平な距離の工事分担を約束し、このメンバーの技術スキルが優れているので、自然と難しい工事を分担していたが、必ず補助要員を付けてその人にスキルを付けさせ、徐々に担当させる様になった。その後は悩んでいたメンバーも明るくなり、より良い職場が出来たことがあった。
但し「見える化」時代でも「アナログ」を欠かせないことは言うまでもない。
2013/05/29 14:46
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