人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

ブログ

2013年5月10日

働かないアリ(ビジネスサプリメント544号)

以前長谷川英祐氏の「働かないアリに意義がある」と言う新書を読んだことがあった。そうすると最近の日経新聞に「働かないアリにも働き」と言うタイトルで大きな記事が掲載されていた。これはグローバル競争に負けない様にと効率性ばかりを追求する人間社会にあって、アリ社会に潜む巧妙さに見習うべき点があるかもしれないという観点からの記事であった。最近は働かない人は年収が極め少なくても当たり前と言う企業トップの発言が出てきているが、その様な単純な問題ではなく再考すべき多くの示唆が含んでいるのではないだろうか。長谷川氏の実験では体調1㎝弱シワクシケアリ150匹を採集し、頭・胸・腹の3カ所をそれぞれ10色で色分けし識別した。石こうで巣穴を作ったプラスチック製の水槽に入れて、顕微鏡で毎日定期的に何をしているのかを約1ケ月間観察し、1匹につき72回分の行動チェックをされたそうだ。労働とみなす作業と非労働とみなす作業を定義づけし観察したところ、労働が7回以下の働かないアリが約10%、28回以上の良く働くアリも約10%いた、そして残りは普通に働いていたとの実験結果が出たとある。働きアリのなかにも働かないアリがいるのはこれまでにも知られ、働き始めるための刺激の感度(反応いき値)が個体ごとに違うとされるからだった。今回の実験は、働くアリだけを集めて飼育し観察したところ、ほとんど働かないアリが10%の割合で出てくることを突き止めたようだ。
長谷川氏は「どんな集団にしても反応いき値のばらつきがあり、いき値の低い<働き者>が先に働き出し、結果的に<怠け者>が出てきてしまう」とのこと。しかし、働かないアリは何も怠けて働かないわけではない、周りに働いているアリがいなければ働くし、働くアリと働かないアリで大きな能力の差があるわけではないらしい。何故一定の割合で働かないアリがいるのか、長谷川氏は生き物も疲れる点に注目し、「疲れて働けなくなったアリが出てきたときに、代わりに働くためではないか」と言う仮説を立てられた。全員一斉に働く方が成果は出るはず、しかし全員が疲れ果ててしまうと、突然巣に敵が侵入してくるなど不測の事態が起きた時に誰も戦えず、巣は滅びてしまう。あえて効率の低い仕組みを採用して、絶滅リスクを最優先していると言う興味深い実験である。
今話題の「追い出し部屋」はなお更効率を阻害している気がするが、この論から「人と組織」のことを考えると「ある程度余裕をもって多様な人材を確保しておくと、組織の永続性は高まる」と言える面があるかもしれない。効率重視の限界が随所に出てきている今日、大きな示唆を含んでいると言える。

2013/05/10 08:56

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