人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

ブログ

2013年8月25日

学習性無力感(ビジネスサプリメント555号)

学習性無力感とは心理学で「長期にわたって、ストレス回避の困難な環境に置かれた人は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなる」と言うものだ。心理学者のマーティン・セリグマンが思い付いた説である。私が講演会で良くお話しする内容は、実験でガラスの水槽の真ん中に透明の仕切り板を作り、片側には小魚のエサ、もう一方にはお腹を空かしたカマスを入れる。カマスは小魚を食べようとするが、透明の仕切り板にぶつかる、何回かする内に仕切り板を取っても諦めて小魚をとる行動を起さなくなったと言うものである。即ち「何をしてもダメなのだ」と言う無力感を学習するのだ。
そうすると少し意味が違うかもしれないが、先日の日経新聞に「誤った記憶 なぜできる」と言うタイトルでノーベル生理学・医学賞を受賞された利根川進氏の記事が掲載されていた。それはいったん体験した出来事が、思い出す際に異なる内容に置き換わってしまう「誤った記憶」ができる過程をマウスで再現されたのだ。「チームは遺伝子操作などの最先端の技術を駆使し、ある体験をしたときに働いた脳の神経細胞に、光を当てると、その体験を思い出すようなマウスを作った、そしてこのマウスを箱に入れ、まず箱の形を覚えさせた、そして違う箱に移した上で、嫌いな電機刺激を足に与えながら脳に光を当て、元の箱に戻すと、まるで電機刺激を受けたように身をすくめることを確認した、このマウスはどんな箱に入れても、脳に光を当てて元の箱を思い出させると、身をすくめるようになっていた」とある。誤った記憶=間違った思い込み、かも知れない。
私が新入社員の頃ある講演会に参加した時に講師から、人事担当者は是非フランクルの「夜と霧」を読んで欲しいと言われ懸命に読んだことを思い出した。
24歳の美しい妻をはじめ、家族すべてをナチスに殺され、自らも強制収容所に収容されてもなんとか生き抜いた心理学者の実話であり、彼には逞しい精神力があり「学習性無力感」の微塵もなかったのを思い出した。
我々の組織において「学習性無力感」が蔓延してはいないだろか?「どうせ言ってもムダ」「言うだけ損をする」「今のままで我慢する」「言っても答えがない」等々・・・・
私自身にも経験がある、上司に進言しようとするが、「おそらく聞いてはくれないだろう、まぁ言わないでおこう」と言う時期もあった。先日日米野球で4000本安打の偉業を達成されたイチロー選手には「無力感」など全く感じられない。
この混迷の時代こそ「学習性無力感」を無くし物事を諦めずにアタックしていくことが求められるのではないだろうか。

2013/08/25 09:46

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