人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

ブログ

2013年10月20日

それを見たのか(ビジネスサプリメント562号)

過日の朝日新聞経済気象台に「君、それを見たのかね?」と言うタイトルで面白い記事が掲載されていた。松下幸之助翁のお話しである。あるとき、経理部長が松下幸之助翁に「今期の決算は大変好調で、最高の利益を上げることができ、現金も5兆円ほどたまりました」と報告したところ、ほめられるどころか、冷たい顔で「君、それを見たのかね?」と言われたとある。経理部長は「一体どういう意味なのか」と困惑したそうだ。幸之助翁は「景気の悪いときはみんながよく分かっていておのおの必死に努めるから何も言うことはない、しかし、好況時にはみんな「それいけ、やれいけと我先に走る、それをどう統御するか、というのが経営というものだ、残念なことに、世上の経営は、その逆をやっているように私には見える」と言われたそうだ。私のビジネス人生もまさにこの体験をしたと感じる、トップに追いつけ、追い越せとどんどん奈落の底に突き進んだ時期があったが、好調期こそ慢心してはならない、成功体験から学ぶものは少ないことは身をもって分かる。この話から「問題は現場にあり」、現場を見ずして語れない経験をしたことを思い出した。
労災事故が少ない企業だったが何故か「婦人靴売り場」の捻挫事故が多かった。
即現場を見に行った、そうすると靴のストック場を見ると高く靴が山積みされているではないか。また高いところの商品を取るために数台の脚立があったが、どれもグラグラする、即新しいものに取り換えた。現場の社員の方々に意見を聞くと「制服がスカートで脚立に上りにくい」「売り場にはあまりにも多くのサイズの靴が陳列され過ぎてお客様が選びにくい」「ストック場を広くして欲しい」「ストックを探す係りは当番制にして欲しい」等々いろいろと現場の改善案が出てくるではないか。早速責任者と相談して「女性社員にはスカートと共にパンタロンを支給」「ストック探しは当番制」「どこに何があるのか即分かる様にタグシステムを導入」し「まずは売り場を3分の2にして、ストック場を広げよう」と提案した。すると責任者は「売り場を縮めると売り上げが落ちる」と言うではないか、まさに変な思い込みがあったが、ともかくやってみようと言うことになった。数か月後には捻挫事故は殆どなくなったし、売り場は狭くなったが、お客様が選びやすく、ストックからもすぐ探せるようになり、売り上げはアップしたのである。事故が多いから注意しようと口頭で伝えていたら、何も改善はしなかったかも知れない。やはり現場に赴き、新しい目線で現状を見ないことには問題解決は出来ないと言うことを思い知ったことがあった。

2013/10/20 07:00

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