リンゲルマン効果についてよく講演会でお話しすることがある。これは綱引きを例に1人対1人の場合はそれぞれが持っている100%の力を出す。しかしこの人数が増えてきて8人対8人になると、各人が無意識に手抜きをして約半分ぐらいの力しかでないという実験をリンゲルマンという方がされたものだ。
要は大勢いると誰かがいるので少しぐらいは手を抜いてもかまわないと思う気持ちが自然に出てくるのかも知れない。
そうすると先日の日経新聞のこころの健康学というコラムに国立精神・神経医療研究センター大野 裕さんが書かれた記事が目に留まった。少し内容を紹介すると、人間関係で直接相手に不満を口にできるようになったら、ずいぶん関係が進んだと考えられる、不満ばかり口にするのはよくないが、相手にとって耳当たりのよいことしか言わなくなるのも、同じように好ましくないとあった。
個人的な関係だけでなく、組織の人間関係でも同じことが言えるのではないだろうか。NHKの大河ドラマの中で軍師黒田菅兵衛でも晩年の秀吉には諌言が通じず、崩壊してしまったのである。いわゆる諌言を避けて甘言ばかりだと組織は破綻に向かっていく。またよく引き合いに出される例に、イエスマンしかいなくなった組織の問題がある。こうなると、不都合な情報が入って来なくなるし、その結果、トップの判断に狂いが生じてくる。よくない情報が入って来ないのは判断ミスが最も起こりやすい状態といえる。不満を口にできなくなると、その気持ちが行動に現れるようになる、最初は意識的であっても、他人に気づかれないように、場合によっては自分も意識しないうちに、力を抜いてしまうこともある。要は力を抜くという消極的な形で不満や反発心を伝える様になってしまっては、何にもならないと述べられている。
私が今行っている個人別ヒアリングでは、よく不満や不平が出てくるものだが、いろいろとお話ししていくと、いつの間にか不平や不満が消えて明るい顔をされる事例が多い。
またある組織で「何でも言って委員会」と称してトップと現場の人たちが自由に意見を交換する場を作ったことがあるが、最初は遠慮がちだったが、その後は思うことをどんどんと発言し、不満や不平が消えていく事例を経験している。要は組織内で「気楽にまじめな話が出来る」ようになってくると、見違えるほど個人のモチベーションや生産性がアップしていくものだ。
不満が言えず、無意識に手を抜くようなことになった組織の蘇生は難しい。
2015/04/01 08:04