人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

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2016年5月 1日

よみがえる(ビジネスサプリメント636号)

以前ご支援していたある企業で、入社10年目の女性社員の方とヒアリングした時であった。彼女は最初非常に暗くうつむき気味で元気がなかった。さてどうしようかと思ったが、まずは雑談しながら「聴く」ことに徹っするようにした。そうするとある時から速射砲のごとく、職場で起こっていること、自分がどのような気持ちで毎日を過ごしているのかを思い切りぶちまけてくれたのである。途中で決して異論やストップをかけず、また諭したりせず、只々うなずくだけ、何と1時間半話まくられた。終わった時に初めよりは何だかすっきりした顔をされている。私は最後に「良く分かったよ、しかし組織の中の自分の立場もこれからは考えていこうね」と締めくくり1回目が終わったのである。
約1ケ月が経過して2回目の場面が来た、彼女は明るい顔で「先日は長時間私の話を聴いていただきありがとうございました、何だか悩んでいたのがおかしくて、すっきりしてやる気が出てきました」と言われるではないか。そして「自分は周りの評価などを気にすることなく、自分の与えられた仕事を懸命に取り組んで良い仕事をすることが大切である」と言われた。私は何も示唆してはいない、只々聴きに徹して「これからは前を向いていこうよ!」と言っただけである。彼女は元々仕事が出来る人だったのであろう、誰も自分のことが分かってくれないというストレスに悩んでいたのである。それがヒアリングを通して分かってもらえたということで、蘇った稀な事例であった。そう彼女の話すことに対していちいち最初から諭したり、指摘したりせず、まずは聴くことから始めたからだ。しかし2回目も話し出したら止まらない性格で、初めて「一方的に話していては相手に伝わらないよ、今相手が何を思っているかを良く理解して、間を置いて端的に話をしよう」と指摘した。そうすると「そうですね!私の一方通行ですね」と気づき始めたのである。おそらく職場では相手がどう思っているのかを考えずに一方的に話をして「誤解」されていたのではないだろうか。2回目の最後には「自分は○○していきたいが、どうでしょう?」という質問も出る様になった。わずか2回のヒアリングだったが、もう暗い顔はなく、明るい顔をして蘇ってくれたのである。ヒアリングにはいろいろなパターンがあるが、彼女のように吐き出すことから始める場合の方が、気づきが早いものだ。

2016/05/01 06:43 |

2016年5月15日

現場こそいのち(ビジネスサプリメント637号)

以前ある物流関係の会社を数年間お手伝いしたことがあった。何時ものように最初は社員全員に個別ヒアリングを数回行ったが、現場で働く人達の声から危惧する事が明らかに浮かんできた。この会社は24時間フル操業体制なのだ、夜中に荷が入って受け取らないといけない作業があった。その作業をする人達とのヒアリングをしていると、かなり疲れている方々が多かったので、良く聴いてみると交代制で表面上の不満や不公平はないらしい、しかし深夜の作業は昼間と違いかなり疲れるし、周りが動いていないだけに寂しい環境になる。また不規則な勤務態様は体がなかなか慣れないとのこと。メンバーが言うには「会社のトップは我々の仕事が分かっているのかなぁ?多分何も知らないだろう」とつぶやかれたのである。
これはいけないと思い私は早速その声をトップにお伝えした、そして「社長!深夜に現場を見に行ってください、そして人数分の熱い缶コーヒー(冬場だったので)を持って行ってください、1人1人にお渡しされながら皆さんお疲れ様と一声かけてあげてください」と直言したのである。この社長は何時も働く人達を大切にされる方だったので、早速数日後深夜に缶コーヒーを持ってご自分の車で現場へ行かれたのである。そして1人1人に声をかけられ、何か問題があれば遠慮なく言って欲しいと言われたらしい。
その後現場の方達と話す機会があったが、彼らから「先日社長が深夜来られて声をかけられた、しかも缶コーヒーまでいただいた、我々の仕事の内容を理解していただきましたよ、ますますやる気が出て来ました」と言われるではないか。この社長はあるべき姿や意識を述べるだけではダメと理解されているし、また公平に評価している、報酬も正当に渡しているから頑張るのは当たり前と言う発想をされていなかったのである。働く人達の現場を見て同じ目線に立たれて励まされたのである。数日後社長から「現場に赴いて大変良かった、皆さんの顔を見て何か一体感を感じましたよ」と言われたのである。
そう、ミッションや企業理念や事業ビジョンなど難しい言葉を並べて唱和してもあまり意味はないかも知れない、トップは我々を何時も見てくれているという気持ちが伝われば、働く皆さんは良い仕事をされるし、コスパは高まるのである。まさに現場はいのちなのだ。

2016/05/15 06:45 |

2016年5月25日

経験は色あせない(ビジネスサプリメント638号)

前職の社長近藤昇氏から「もし波平が77歳だったら」というタイトルで本年1月に上梓された単行本をいただいた。漫画サザエさんのお父さんの波平の年齢設定は54歳、それは定年退職年齢が55歳の時の話、ちなみにサザエさんは24歳だそうだ。しかし現在定年は65歳、場合によっては70歳の時代に突入し、高齢者の雇用がこれからの大きな課題であると言われている。今は年齢の7掛けの時代、つまり今の厄年は還暦の60歳ではないかと述べておられる。よって波平の54歳は、今は77歳の7掛けとなるという論理である。高齢者はまだまだ働けるというのではないだろうかとの問いかけをされている。
そうすると先日、日経夕刊の「あすへの話題」で前厚労事務次官村木厚子氏のコラムが掲載されていた。少しご紹介すると、若い担当職員の方が「一番は生涯現役が大切ですよね」とつぶやかれたとか。問題は高齢になるほど個人差が大きくなる気力や体力に合わせた多様な出番を用意できるかどうかだと述べておられた。今まで勤めた会社で引き続き働く、一定の年齢で体力に合わせ転職する、シルバー人材センターのように臨時的、短期的な仕事をするといった多様な選択肢が欲しいとも。シルバー人材センターといえば、庭の手入れや公園の草刈りなどが思い浮かぶが、最近は介護、子育て支援から空き家管理やスーパーの品出しまで幅広い仕事があり、72万人の方々が活躍されているそうだ。驚いたのは秋田県藤里町では「町民すべてが生涯現役を実践するシステムづくり」として「プラチナバンク」への登録を呼びかけているとか、求める収入、仕事時間、ヤル気、経験に応じて、バリバリ働く形から「支援付き」で働く形まで「自分のスタイル」で仕事が出来る、デイサービスに通っている人も登録できるらしいとある。
私も去年公開された映画「マイ・インターン」を鑑賞した、アン・ハサウェイの経営する会社にシニア・インターンで入ってきたロバート・デ・ニーロがシニアならではの知恵と経験値で、決して上から目線ではなく彼女を助けるという素晴らしい内容だった。ポスターにはExperience never gets old (経験は色あせない)とある。老後はまずは健康・経済・やり甲斐の3本柱であることは言うまでもない。私ももう少しで70歳の古稀だが7掛けだと49歳ではないか(笑)。間違っても「サザエさん症候群=日曜日の夕刻に放映される漫画サザエさんの歌を聞くと、明日はブルーな月曜日を思い出し鬱になる」というような状況にならないで欲しいと思う今日この頃である。

2016/05/25 08:18 |

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