人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

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2016年8月 1日

終わった人(ビジネスサプリメント643号)

内館牧子さんの最近の著書「終わった人」を一気に読んだ。「定年って生前葬だな」という 衝撃的なこの一文から本書は始まるのだ。大手銀行の出世コースから子会社に出向させられ、そのまま定年を迎えた主人公、仕事一筋だった彼は途方に暮れる。年下でまだ仕事をしている妻は旅行などにも乗り気ではない。図書館通いやジムで体を鍛えることは、いかにも年寄りじみていて抵抗がある。どんな仕事でもいいから働きたいと職探しをしてみると、高学歴や立派な職歴がかえって邪魔をしてうまくいかない。妻や娘は「恋でもしたら」などとけしかけるが、気になる女性がいたところで、そう思い通りになるものでもない。さあこれからどうする? 惑い、あがき続ける彼に安息の時は訪れるのか?ある人物との出会いが、彼の運命の歯車を狂わす。シニア世代の今日的問題であり、現役世代にとっても将来避けられない普遍的テーマを描いた素晴らしい作品だ。
定年後は健康・生きがい(遣りがい)=お役に立っている・経済の3本柱だ。
私は定年ではなく倒産で支店長として社員を約300名退職勧告した経験があり、その後自ら退職を申し出て当然のごとくスムーズに受理された身であった。そんな時定年を迎えられる方が羨ましくもあった。私は期末の最終日までは辞めることを社員には公表していなかったので、秘書で良く尽くしていただいた方々のみに見送られるという寂しい最後だった。本のような子会社へ出向し拍手で花束を贈られてリタイアした訳ではない。54歳という中途半端な歳で荒波に放り出されたのである。半年間は自分の身の置き場は全くなかった。この本の主人公とは切迫感が違い、職場から墓場までの距離はまだまだあった、しかし起業するほど自立マインドは付いておらず、振り返ればぶら下がりの32年間であった。半年間は迷いに迷い、漸くベンチャー企業への転身を決意したのである。ベンチャー企業は「ぶら下がれない=ぶら下がるロープなどない」、まるでバンジージャンプのロープを腰に巻きつかれて飛び降りろと言われたような錯覚に襲われた。全く違う世界に飛び込み今までの常識が全く非常識であったことに気づかされ、「自立」するマインドを学習した。企業内で起業マインドを学んだのだ。この5年間の経験があったからこそ60歳になって初めて独立し、懸命に頑張って間もなく10年目を迎える。
最近は週3日ぐらい数社の顧問としての仕事を引き受け、また時々講演の依頼も受けている。キーワードである「何とかお役に立ちたい」という気持ちが自分自身の唯一のモチベーションになっている。また高齢者と呼ばれるようになってからは、仕事以外で自分が楽しめることを考え始めたのであるが、これがなかなか見つからない。確かに余生という言葉は嫌な響きである。結局自分の居場所は自分で見つければ「終わった人」にはならないと気づき始めた今日この頃である。

2016/08/01 06:05

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