筆者が今の仕事を始めだした頃、PHP研究所でかなり講演をさせていただいた。東京での講演会の時、当時社長であった江口克彦氏が後ろで聞かれていたのである。終了時に江口氏から「上司の哲学」という江口氏著の本をサイン入りでいただいたのを思い出した。松下幸之助氏に学んだ、人を育てるコツ・活かすコツと副題にあつた。松下氏のもとで直接指導を受けられた経営指導論が満載であった。
今でも忘れないエピソードが掲載されていた。幸之助氏が江口氏に「ハーマン・カーン」とう学者が松下氏に会いに来ることになった。未来学者のカーン氏は「21世紀は日本の世紀」と公言し、当時日本でも話題になっていた人物だったのである。
ある日、松下氏は江口氏に「君、ハーマン・カーンという人を知っているか?」と尋ねられたそうだ。江口氏はすぐさま「ハーマン・カーンという人は、21世紀は日本の世紀だと言っているアメリカのハドソン研究所の所長で、未来学者です」と答えられた。松下氏は「そうか」とうなずかれたとか。
そして次の日も「君ハーマン・カーンという人はなにをする人や」と聞かれたらしい。再び上記と同じ回答をされたのである。そうすると「そうか」とうなずかれた。3日目もまたまた「君、ハーマン・カーンという人は誰や」と言われる。江口氏は半ば憮然として、少し語気を強めて同じように答えられたらしい。私の言うことを真剣に聞いてくれているのだろうか?とイライラしたとある。そこでハタと「そうか、3日間も続けて同じ質問をされたのは、自分の説明が足りなかったからだ」と気づかれたのである。即書店に行き「西暦2000年」というカーン氏の著書を手に入れて、徹夜をして大作を読破し、内容の概略を記録用紙3枚にまとめて、朗読してテープにまでまとめられたのである。
そして意気揚々と松下幸之助氏のところへ向かわれた。なかなか松下氏はハーマン・カーンについて聞かれなかったが、昼食時「君、今度な・・」と言われた時、江口氏は心弾む思いで30分ほど話され、松下氏は熱心に聞かれたそうだ。
ところが江口氏は吹き込んだテープを松下氏に話された時に手渡すことを忘れたので、お帰りの車に乗られる時に渡されたのである。翌朝松下氏は「君、なかなかいい声しとるなぁ」と言われたとか。
「気づき」には時間がかかることが多い、松下氏が「聞いているのは、そんなことではない、もっと詳しく答えてくれ」と言えば済むことなのだが、それでは人は育たない。
私はこの本から「気づき」の大切さを学び「気づきナビゲータ」と名乗ったのだ。「上司の哲学」は今でも書棚の中心に飾っている。
2017/03/27 05:49