人と組織研究所 気づきナビゲーター 高橋貞夫

ブログ

2017年8月 1日

さんと君(ビジネスサプリメント673号)

以前お手伝いしていた企業でのお話しである。その会社は成果主義を標ぼうしている成長企業であった。ある経営幹部が入社7年の経験を持つ独身の男性社員に対して「A君」と呼んでいた。ある時中途採用でその男性社員よりも5歳年上の男性社員が入ってきた。いかんせん、畑違いからの転職ということで仕事については全くの新人である。所帯があり、家族を自分が養わねばという気持ちからもやる気十分だった。その新人の体格や、所帯持ちということからにじむ空気であろうか、経営幹部は「Bさん」と彼を呼んだのである。そのいうことが1ケ月ほど続いていたようである。
するとある日、入社5年目の女子社員がその経営幹部に言ったそうだ。「何故Aさんことは<君>付で、Bさんのことは<さん>付けなのですか、確かにBさんは年齢も上で既婚者です、しかし仕事で言えばAさんのほうがBさんよりも先輩です、私は何だか違和感があります」と進言したのである。
言われた幹部はとても驚いたそうである。ハッと気づいた様子で、すぐに「なるほど、あなたの言う通りだ、無意識に呼んでいたようで、自分でも全然気がつかなかった、教えてくれてありがとう」と答えたのである。すぐにその後から、Aさんは「A君」ではなく「Aさん」と呼ばれるようになったことは言うまでもない。意識と言葉は深く結びついている。本人同士がさほど意識しなくても、名前を呼ばれるたびに、Aさんの心には自分のほうがキャリアはあるのにという不満が募っていたかもしれない。その後Aさんはさらに仕事に邁進し、成績も伸ばしたようである。Aさんは後輩女子社員に「自分では<君>と<さん>との違いはさほど意識していなかったのだが、あなたは勇気があるね」と声をかけたという。進言した女子社員にも感心するが、それを素直に受け入れた経営幹部も素晴らしい。日頃から「仕事の能力と年齢は比例しない」と成果主義を取り入れて実践してきた企業風土もあるだろう。こういう上司のもとでなら、成果主義も個々を尊重しながら日本的な経営に活かすことができるかもしれない。厳密に言えば「君」は高貴な方への呼称であり「君子危うきに近よらず」なんて言葉がある。このご紹介したケースは「上目線からでた言葉」で発せられたような気がする。「さん」はお互いに尊重し合ってでる言葉のようである。未だに上司が部下をニックネームで呼んでいる会社もある。親しみをこめて言う場合は良いが、会議の場でもニックネームで呼んでいるようでは緊張感も生まれない。
ことほど左様に呼び方一つで会社内の雰囲気も変わるのである。

2017/08/01 06:28

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